2-1ウィルキー・コリンズ「月長石」

2023年10月

ミステリーの歴史を調べてみると、1868年に書かれたこの「月長石」が、最初にして最長の長編ミステリーと言われているらしい。正確には1866年に書かれたガボリオの「ルルージュ事件」が世界初の長編ミステリーらしいが、この月長石も初期の長編ミステリであることに間違いはない。

以下感想

全体として語り手含め登場人物がみな、思い込みが激しく日和見だったり感情的すぎたりすると感じた。それが人間らしいといえば確かにそうだなと思いつつ、もうちょっと冷静に考えたら?とか理性で考えたら?とも思った。

宗教に関して信仰心が強すぎる人がいて、ある意味面白かった。かなり誇張はしているとは思うが、宗教に縁のない自分にとって信仰の強い人の思考はこういうものなのかと新鮮に感じた。実世界と結びつけて考えてみると、自分の信じているものと関連付けて考えたり、納得したり、思い込んだりするのはなにも、宗教に限らないのではと思った。例えば、偉い人が言っていたからとか、権威が言っていたということでそれを盲信したり人に考えを押し付けるのはよくあることだと思う。良し悪しではないが、自分の頭で考える人と他者の思想に頼る人とでは根本的に違う人種だなという感想を持った。

肝心のミステリ要素は特別良いとも悪いとも思わなかった。トリックというか解決パートは、なるほどという感じ。完璧にロジカルに犯罪が行われてほしいわけではないが、やはり偶然の出来事に便乗したみたいなことになると、そんなに感激はしないのかな。実際には偶然が介在した犯罪も十分あり得るから自然なことだと思うんだけど、自分の中でどう考えるべきか答えを持っていないのが正直なところ。

ともあれ、これだけ長い小説で昔の小説なのに読みづらさをあまり感じなかったので、作者と翻訳者が優れていると感じた。